ホテルを開業するには、多くの準備と戦略が求められます。
立地選びやターゲット層の設定、施設の設計から運営計画まで、綿密な準備が必要です。
また、資金調達のための融資・補助金活用や、営業許可・法的手続きなどの対応にも時間と労力を要します。
この記事では、ホテル開業に必要なステップを時系列で詳しく解説するとともに、成功に導くためのポイントをご紹介します。
ホテル経営をご検討中の方や、ホテル開業の流れを具体的に知りたい方は、ぜひ参考になさってください。
はじめに
ホテル開業は、ビジネスチャンスであるとともに、観光業や地域活性にも貢献できる大きなチャレンジです。
観光業の発展に伴いホテルの需要は年々高まっており、新規参入の可能性も広がっています。
近年のインバウンド需要の拡大や、政府の観光政策やビザ緩和措置により、日本を訪れる外国人観光客は増加傾向にあります。
特に、コンセプトのある個性的なホテルは、多様化する旅行者のニーズに応えられると注目されており、外国人観光客向けの宿泊施設にも期待が高まっているのです。
また、国内旅行も多様なスタイルがあり、ワーケーションや長期滞在型のホテル、地域密着型の分散型ホテルや民泊などが人気を集めています。
こうした注目の市場であることから、ホテル開業に大きな可能性を感じている方も増加しているのでしょう。
次の章から、ホテル開業で成功するために知っておきたい基礎知識や、重要なポイントを詳しく解説していきます。
ホテルの形態と特徴
ホテルにはさまざまな形態があり、それぞれ異なる運営スタイルやターゲット層を定めています。
ご自身のビジョンや資金計画に合った形態を選ぶことが、成功の鍵といえるでしょう。

・独立系ホテル
独立系ホテルは、オリジナルブランドで運営するホテルのことを指します。
独自のコンセプトやデザインによって、他にはない魅力で差別化できるのが強みです。
ただし、ブランド認知度を築き上げるためのマーケティング戦略が必須になります。
・フランチャイズホテル
フランチャイズホテルは、大手ホテルチェーンのブランドに加盟し、そのノウハウや集客力を活用して運営する形態です。
ブランドの知名度が既にあるため、集客面などに関してのサポートを受けられますが、加盟費やロイヤリティは必要になります。
・ビジネスホテル
ビジネスホテルとは、出張や短期滞在のビジネス客向けの宿泊施設です。
手頃な宿泊費を設定したホテルが多く、シンプルな客室、Wi-Fi、デスク、朝食などの基本設備やプランを有します。
ビジネス客向けのため、駅や繁華街に近く便利な立地であることも特徴です。
・ゲストハウス・カプセルホテル・無人型ホテルなど
ゲストハウスやカプセルホテルは、短期間の宿泊者やバックパッカー向けに適した形態です。
比較的低コストで開業できるため、初期費用を抑えつつ収益を上げやすい形態だといえます。
また近年、アパートや土地を活用したホテルの運用形態にも注目が集まっており、無人化経営(セルフチェックイン)も普及しています。
地域内の空き家や古民家を活用した分散型ホテル、無人型ホテル、民泊などがその例です。

特に無人型ホテルは、電子キーやタブレットの活用により、24時間対応・無人化運営が実現できることもあります。
セルフチェックインを導入することで、非対面が可能となるため、人件費の削減や感染症リスク軽減にもつながります。
・リゾートホテル・シティホテル
リゾートホテルやシティホテルは、比較的予算に余裕のある層をターゲットにした宿泊施設です。
観光地や都市部に位置し、宿泊以外にもレストランやスパなどのサービスを付帯することで高収益を目指します。
ただし、規模も大きく多額の開業資金がかかるため、綿密な事業計画が必要になります。
ホテル開業で必要な資金はどのくらい?
ホテルを開業するには、最低でも1室あたり100~200万円程度の資金が必要とされています。
規模や立地、ホテルの形態によって必要資金は大きく異なりますが、新築の場合は、建築費用を含めることで、さらに高額になることが一般的です。
土地取得費や建築費だけでなく、設計費や税金、不動産会社へ支払う仲介手数料も含めると多額の資金調達が必要になるため、予め内訳を確認しておきましょう。
<ホテル開業に必要な資金の内訳>
項目 | 詳細 |
建設・改装費 | ・新築の場合:土地取得費+建設費 ・既存物件の活用(居抜き物件):リノベーション費用 |
設備・備品費 | ・新築の場合:土地取得費+建設費 ・既存物件の活用(居抜き物件):リノベーション費用 |
人件費 | スタッフの採用、研修、給与 |
広告宣伝費 | 開業時のプロモーション、マーケティング活動(Web広告、パンフレット作成など) |
許認可取得費 | 旅館業法に基づく営業許可の取得、各種手続き費用 |
運転資金 | 開業後、収益が安定するまでの運営費(家賃、光熱費、消耗品、追加人件費など) |
資金計画を立てる際には、初期費用だけでなく、開業後のランニングコストも考慮することが大切です。
特に、事業が軌道に乗るまでの運転資金は、余裕を持って確保しておくことをおすすめします。
ホテル開業までの流れ(フローチャートつき)
ホテル開業には約2年の準備期間が必要です。
まずは事業計画の策定、物件の選定、設計・施工準備などに着手します。
その後は以下の流れを参考に、ご自身の事業内容に合わせて計画的に進めましょう。

① 開業18~16ヶ月前:許認可手続き開始
建築工事の契約、営業許可や建築確認申請など、必要な手続きを進めます。
② 開業16~14ヶ月前:施工開始
建築またはリノベーション工事を開始します。併せて、ホテルのブランディングやロゴ作成にも着手しましょう。
③ 開業14~12ヶ月前:設備・備品の選定
家具・家電・アメニティなどを選定し、発注します。また、サービススタンダードの作成や顧客管理など、オペレーション計画を練りましょう。
④ 開業12~3ヶ月前:人材採用・広告宣伝開始
ホテルが竣工し、引き渡しや残工事が行われます。この時期は、スタッフの採用・研修を実施したり、予約受付やプロモーション活動を本格的に進めたりなど多忙になります。
⑤ 開業3~1ヶ月前:運営準備・テスト運営
搬入スケジュールを確定させ、備品や家具什器を揃えていきます。また、フロントシステムなどの搬入も行います。運営準備の最終段階となるフェーズです。
⑥ 開業2~1ヶ月前:写真撮影やOTA募集ページの作成
OTA(※)の募集ページを作成するとともに、ページ内で使用する写真を撮影します。プロのカメラマンに依頼し、ホテルの内観や外観の撮影を行います。(※旅行予約サイト)
⑦ ホテルオープン!
満を持して開業し、ゲストを迎えます。
開業後にも、さまざまなフォローアップが必要になります。
① 開業18~16ヶ月前:営業許可等の手続き
この時期には、営業許可の取得手続きを進めます。
旅館業法の基準を満たすために、必要書類の準備を進めましょう。
併せて、ホテルの運営方針や価格設定を検討します。
具体的な手順
- 建築工事の契約を進める
- 営業許可の取得手続きを進める
- 建築確認申請をする
- 客室料金やサービス内容を決定する
- 運営マニュアルを作成する
- 予約システムや管理システムの導入を検討する
② 開業16~14ヶ月前:建築の本格化・マーケティング戦略の策定
建築・改装工事が本格的に開始される時期です。
また、ホテルのマーケティング戦略を策定し、集客方法を検討します。
具体的な手順
- 建築・リノベーション工事を開始する
- 客室設備や備品の詳細を決定し発注する
- 空間に合わせた家具を選定、オーダーする
- 予約受付の開始時期を設定する
- 従業員の就業規則や給与規定など、組織計画を練る
③ 開業14~12ヶ月前:備品発注・PR活動開始
建築や改装を進めながら、備品などの発注を始める時期です。
Webサイト制作やPR活動も行い、認知や予約につなげましょう。
具体的な手順
- 客室設備や備品(家具、家電、アメニティなど)の詳細を決定し発注する
- WebサイトやSNSなどでの集客の準備を進める
- PR戦略を策定する
- 予約受付の開始時期を設定する
- 予約システムの導入とテスト運用を行う
- ホテルスタッフの採用準備を進める
- 運営マニュアルの調整を行う
④ 開業12~3ヶ月前:スタッフ採用・運営システムの決定
広告・宣伝活動を強化し、ホテルの認知度を向上させます。
併せて、スタッフ研修や予約受付なども開始しましょう。
具体的な手順
- スタッフの採用と研修を行う
- 予約受付を開始する
- オープニングキャンペーンを計画する
- 地域観光との連携を強化する
- 運営システムの決定を行う(顧客管理・フロントオペレーション・ゲスト動線計画など)
- 自動販売機や電話、決済端末の契約など、各種業者を決定する。
⑤ 開業3~1ヶ月前:運営の最終確認
ホテル開業の最終段階です。
運営の最終確認を進めましょう。
具体的な手順
- 設備の最終チェックを行う
- スタッフの実地トレーニングを実施する
- メディア向けPRを強化する
- 搬入スケジュールを整え、備品や家具什器などを搬入する
⑥ 開業2~1ヶ月:写真撮影やOTA募集ページの作成
OTA(※)の募集ページを作成したり、ページ内で使用する写真を撮影したりと集客の準備を進めます。また、複数のOTAを使って募集を呼びかけることも検討します。(※旅行予約サイト)
具体的な手順
- OTAで使用する写真をプロに撮影してもらう
- 複数のOTAを利用するか検討する
- オーバーブッキングが発生しない運営体制か確認する
⑦ ホテルオープン!:接客対応・サービスのブラッシュアップ
ホテルのオープン後は、運営を安定させるためにフォロー体制を強化しましょう。
ゲストの声を活かし、絶えず改善を行うことが成功の鍵となります。
運営のポイント
- ゲストの声を、接客対応やサービスの質に活かす
- SNS・口コミサイトを活用したプロモーションを行う
- 定期的にスタッフ研修を実施する
お客様満足度が上がることで、予約数や稼働率・客単価・収益の上昇が見込めます。
また安定経営を目指すには、スタッフの離職率を下げることも重要なポイントになります。
新規採用やトレーニングのコストを削減するためにも、優秀なスタッフを長期雇用できるよう「働きやすい環境」を整えることにも注力しましょう。
ホテル開業で必要な手続き
最後に、この章ではホテル開業に欠かせない建築許可や宿泊業許可、飲食店営業許可など、さまざまな手続きについて解説します。

建築許可
建物を建築する際に必要な許可を指します。建築基準法に基づき、設計や施工が適正であることを確認するものです。
特に注意が必要なのは「用途地域」で、 街づくりにおいて建てられない建物が決まっている地域があります。
ホテルが建てられない場合もあるため、事前確認が重要です。
宿泊業許可
ホテルや旅館などの宿泊施設を営業するために、必須となる手続きです。
ホテルの所在地を管轄する保健所から許可を得る必要があります。
- 旅館・ホテル営業(ビジネスホテル・リゾートホテルなど)
- 簡易宿所営業(カプセルホテルなど)
- 下宿営業
上記の3つの区分に分かれているため、宿泊業の形態に応じて許可取りを行いましょう。
飲食店営業許可
飲食店を開業する際に必要な許可です。
食品衛生法に基づき、厨房設備や衛生管理基準を満たすことが求められます。
飲食営業許可を取得するためには、食品衛生責任者を1名以上置くことが定められています。
酒類販売許可
酒類を販売するための許可で、ホテルのお土産コーナーで酒類を取り扱う場合などに必要となります。
小売業と飲食業で許可の種類が異なり、酒税法に基づく基準を満たさなければなりません。
消防安全許可
ホテルの安全対策として、火災予防や避難経路の確保が適切に行われていることを証明する許可です。
消火器や火災報知器、消防用設備などの必要数や種類が、ホテルの広さや構造などに合わせて細かく決められています。
ホテル開業のリスクとメリット
ホテル開業には大きなメリットがある一方で、初期投資や運営リスクも伴います。
事前リサーチや準備を十分に行い、リスクに備えましょう。
メリット
- 収益性が高く、安定した収入源となる可能性がある
- インバウンド需要の増加により、市場の成長が期待できる
- 都心部だけでなく地方都市でもニーズがあるため、土地や建物を有効活用できる
リスク
- 初期費用が高額で、運営開始までの資金計画に課題がある
- 稼働率の変動により、収益が不安定になる可能性がある
- 法規制や衛生管理などを適切に管理する必要があり、遵守事項が多い
上記をよく理解し、ホテル開業に踏み切ることが重要です。
安定した収益を得るためには、適切な管理体制が鍵となります。
ただし、一般の方では法規制や衛生管理、人材育成などを負担に感じる可能性もあるでしょう。
そのような場合には、ホテル経営を外部のプロフェッショナルに委託するのも一つの方法です。

ホテル開業はきちんとした計画が必要!
2025年現在、円安の影響からインバウンド需要が高まりつつあり、ホテル業界は大きな成長を遂げています。
しかし、インバウンド需要のみに依存したホテル経営では、将来的な市場の変動に対応しきれず、不安定な経営になりやすいのも事実です。
国内のビジネス需要や観光需要も考慮した開業計画を策定すれば、安定した稼働率を確保できる可能性が高くなります。
また、専門家のアドバイスを受けることで、より確実性の高い開業計画を立てられます。
ホテル運営の委託やコンサルティングを活用することも選択肢の一つです。
ホテル業界に精通した「ホテリエ」は、開業から運営までのサポートを行う専門家です。
理想のホテル経営を叶えるため、あなたのご希望に合わせて伴走いたします。
ホテル開業をご検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。